herstory  

〜 本 〜



  彼女は小学2年の夏に熊本から新潟に転校した。
  2学期から新しいクラスに入ったが、そのときには既にクラスの女子にはグループが確立しており、
  その頃は特に積極的でもなかった彼女はしばらくどのグループにも入り込めず、
  お昼の休み時間の過ごし方に困った。
  
  彼女は時間つぶしに図書館に行くようになった。
  最高で2冊までしか借りることができなかったが、
  毎回2冊借りては翌日に返し、また2冊借りるということのくり返しであった。
  次第に彼女は独りの時間が苦痛でなくなった。

  ざわつく教室の休み時間でも、周りの状況が目に入らないくらい本の世界にひたりこんだ。
  学年が上がってクラスが変わると彼女もある仲良しグループの中に入ることができた。
  休み時間を独りで過ごすことは少なくなったが、放課後本を借りて帰る習慣は変わらなかった。

  その図書館の前には、入学してから本の貸し出し合計上位5名の子どもの名前が毎月張り出されていた。
  6年生のある月に、彼女の名前が本の貸し出し全校第5位のところに書いてあるのを発見した。
  彼女はとても誇らしく思った。

  しかし、張り出された彼女の名前の苗字の漢字が間違えてあった。
  小学生の間はささいなことがからかいの対象となる。
  図書館の前を通るたびにクラスの男子から散々からかわれた彼女は、本を借りるペースを落とした。
  翌月彼女の名前は貸し出し上位5人から消えた。




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