herstory  

〜 いのち 〜



  人間、誰しも一度はいのちについて考える。
  自分がいま生きているということ。
  死は例外なく万人に訪れること。
  生まれた瞬間からタイムリミットが発生し、それは努力で早めたり遅めたりもできること。
  ただ時に死神は大事な人物をこの世から突然連れ去ることを。

  彼女の憧れだった5人の女性のうちの一人、F先輩は20代で早すぎる死を迎えた。
  F先輩の棺をご両親とご兄弟が運ぶ姿をみて、彼女はある決意をした。
  どんな状況であろうとも、彼女の両親と弟の棺は自分が運ぶ。
  自分の棺は自分の子どもに運ばせ、両親の手は絶対に煩わせないと。
  それが一番の親孝行であるということをF先輩の死が気づかせてくれた。
  
  F先輩は彼女の大学の部活の2コ上の先輩。
  音楽部の学生指揮者として彼女の憧れであった。
  F先輩が指揮をすると、紙に書いてある詩に言葉に音符にいのちがふきこまれた。
  何もない空間に最初の拍を生み出すのがconductorの最大の仕事である。
  彼女が2年後に後を継いで学生指揮者になった時、
  歌にいのちを吹きこむこの緊張の瞬間を一番大事にした。
  
  生きているもの以外にもいのちは存在することを彼女は知っている。
  今では仕事で様々な締め切りに追われている彼女だが、
  今日できる仕事を明日に伸ばすのが嫌いな姿勢は変わらない。
  その仕事のいのちを太くするか細くするか、長くするか短くするかは彼女次第。
  自分のいのちを輝かせるために、自分のかかわるたくさんのいのちを輝かせるために、
  彼女は今日も全力で疾走する。



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