herstory
〜 距離 〜
彼女は卒論で「パーソナル・スペース」についての研究をした。
パーソナル・スペース(個人空間)とは、その人を取り囲む空間の中で、
他人が入り込まない(入り込んで欲しくない)範囲の空間のことである。
満員電車の中で見知らぬ他人と接触しなくてはいけない時はとても不快に感じ、
恋人といるときは周りに十分なスペースがあっても、くっついていたいと思う。
パーソナル・スペースの大きさは年齢、性差、性格、相手への好意度、文化などによって違う。
誰とでも比較的すぐに話ができるが、逆に人との距離をある一定距離からなかなか縮められない。
そんな彼女は寮の4人部屋でのパーソナル・スペースと対人関係についての研究にはまった。
相手への好意からパーソナル・スペースが狭まり、
相手との心の壁がパーソナル・スペースを広くしていることがこの研究でも実証された。
卒論の時点では実証していないが、
相手との距離が近いことが続くことが、無意識のうちに相手への好意を生み出すこともあると思う。
逆に相手との距離が遠いことが続くことが、知らず知らずのうちに相手との心の壁を生み出す。
仕事をしていると彼女は心理学では有名な、ある言葉をよく思い出す。
「ハリネズミのジレンマ」
ハリネズミは寒い冬に体を温めようとお互いに近づく。
しかし、お互いの鋭く長いハリが相手の体を突き刺し、傷つけあってしまう。
本当はもっと相手に近づきたいのだが、
自分の身を守るために、相手を傷つけないために、
ある一定距離までしか近づけない。
ジレンマに常に陥っている彼女は、自分はまさしくハリネズミだと思った。