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〜 メンバー 〜



  部活動でどの部も毎年抱える悩みは卒業生の存在と新入生不足である。
  合唱自体は2人以上いれば、体が楽器のためいつでもどこでもできるのだが、
  部活動として運営し、コンクール出場や演奏会開催を果たすためには、
  最低でも10名以上の在籍団員が必要となる。

  有名な学校の合唱団ではコンクールの定員オーバーのために選抜があるところもあったが、
  彼女が在籍した部では在籍部員はもれなく全員レギュラーであった。
  少しでも人数の多いほうが迫力のある演奏ができることは言うまでもない。  
  増やす努力はもちろんのこと、今いる部員を一人でも辞めさせない努力というのも不可欠であった。

  彼女は辞めたいといった部員に対し、誰でもどんな状況でも「引き止め大作戦」を実行し、
  すぐにはなかなか辞めさせなかった。
  たいていは決意固く、結局辞めてしまう結果になることが多かったが、
  それでも引きとめに成功することもあった。
  彼女は引きとめたからには、卒業するときに残っておいて良かったと言ってもらえるように気をつけた。
  ただ、それはあくまでも相手に甘くすることではなく、
  合唱で充実感を感じてもらうことに全力を尽くした。
  
  「チームが勝つために下手な人は受け入れない」「辞めさせる」「引き止めない」「どうせ代わりがいる」
  チームプレーをするのほかの部でこういう話を聞いた。
  精鋭部隊は確かにやりやすい。
  しかし、一人でも人数を増やしたい部にえり好みをする余裕はなかった。

  合唱でコンクールに出たり、演奏会をする上で、
  突出して聞こえる声や音程のとれていない声がハーモニーを崩すことは少なくない。
  しかしそれを排除していては大きな音楽は作れない。
  例え大きく目立つ欠点があったとしても、
  どこかで必ずその声が何かを助けていたり、演奏のスパイスになっている。

  彼女にとってコンクールで賞をとること、完璧な演奏をすることが最終目的ではなかった。
  一人でも多くのメンバーがステージに立ち、お客様の心に響く演奏をすること。
  一人でも欠けることは、彼女の求める演奏から遠ざかることであった。

  


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