herstory  

〜 残す 〜



  彼女は自分の経験や得たものを残すのが好きだ。

  彼女が後輩に残した指揮法ノート。
  自分が先輩から受け継いだこと、教わったこと、
  指揮者講習会で得たもの、他団の演奏から盗んだもの、
  彼女自身が考えたこと、状況から導かれること、
  思い出せる限り、詳細に書き留めていった。
  
  「自分で苦労しなくては身につかない」
  この考えで彼女自身は動いてきた。
  先輩から残されたもの、教えられたことがあっても
  自分の技術として体得するために、あえてゼロからスタートすることもあった。
  しかし、時に思う。
  自分で苦労しなくても身につくこともある。
  受け継いだものをうまく活用することで、もっと早く先に進める。

  先輩が運んできたたすきを、途中から受け継ぐことによって先の道へ進む。
  先輩の通った道を見ないまま次に進む不安
  後輩が自分よりも先の道に進む嫉妬
  この二つを乗り越えないといけない。
  
  けれども彼女は残す。
  彼女が去った後も、その部がよい状態で続いて欲しいから。
  集団に属し、ちょっとでもその恩恵を受けたなら、
  その集団がよい方向に向かえるように道を整備するのが個人の役目

  彼女は女であることに誇りを持っている。
  子どもを産む能力を持っていること。
  自分が受け継いだものをさらに先の世界へつなげる。

  彼女は何かを残すために生かされているのかもしれない。
  


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