herstory
〜 抜き打ち 〜
バレンタインデー
この日は教室内が朝から落ち着かない雰囲気である。
普段ぎりぎりにしかこない男子が早くから来ていたり、
靴箱あたりでなにやらこそこそと動き回る女子の集団もある。
しかし、彼女にとって2月14日は自分の誕生日以外の何物でもなかった。
女の身でありながら、ありがたいことにチョコをもらえる日であった。
ある年の2月14日。
そのときも彼女は友達から誕生日プレゼントをもらって朝からゴキゲンであった。
誰かのために作った手作りチョコのおこぼれであろうとかまいやしない。
チョコばかりでは飽きるでしょうとクッキーを作ってくれた人もいた。
「ぬきうち検査だぁぁぁぁーーーーーーー」
朝礼がもうすぐ始まるという時に遠くからある男子が叫びながら廊下を走りぬけた。
教室内の空気は緊迫した。
彼女も焦った。
せっかくもらったクッキーやチョコが没収されてしまったら大変だ!
「食べて!食べて!」
おいしいクッキーを味わう余裕もなく、彼女の口の中に押し込められた。
のどに詰まらせてむせながらも、なんとか口の中のクッキーは彼女の胃の中に納まった。
その間に彼女の親切な友人は、チョコを見つからないように隠してまわってくれた。
抜き打ち検査は結局なかった。
職員室から一斉に出てきた先生達をみて、誰かが勘違いしたらしい。
何事もなく朝礼が終わり、友人達は隠していたところからチョコレートを出してくれた。
ホウキの下、ほこりかぶった掃除用具入れの上、運動靴の中…
「ここなら検査があっても大丈夫だったでしょ!」
得意そうに話す友人。
食いしん坊の彼女でもさすがに食欲を失った。