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〜 ロビコ 〜



  演奏会がすべて終わって観客が帰る時、
  団員がロビーに出て、ご挨拶をしたり歌でお見送りをすることがある。
  ロビーコール、略してロビコ。
  ステージと客席という離れた場にいたのが、
  同じ場で、近い距離で、感動と興奮を共有する。

  高校の音楽会のロビコは曲がきまっていた。
  「さようなーら みーなさまー
  またいつーか 会う日まーで
  なつかしい思い出を いつまーでもむねーに
  さーよなら みーなさまー」
  この曲を手拍子を打ちながら延々とくり返し、ホールから出てくるお客様を送り出す。
  今まで聞くばかりであったお客様が、最後は部員の作る花道を通っていく。
  ちょっと恥ずかしそうにそそくさと去る方、
  知り合いを見つけて嬉しそうに帰っていく方、
  お客様を最後までお見送りするのは楽しかった。

  大学の演奏会のロビコはその団のカラーがでた。
  毎年同じ曲を歌い継ぐところ、指揮者の好みの曲を歌うところ。
  彼女の団は愛唱歌1曲と校歌を歌うのが常だった。
  けれども彼女はあえてそこからはずれて、
  ドリームズ・カム・トゥルーの「サンキュ.」にした。
  合唱版はもちろんなかったので、CDをくり返し聞いて3部合唱に編曲した。
  演奏会に来てくださったお客様、
  未熟な団員達を支えてくださった先生方や先輩方、
  無理と無茶、厳しいことばかりいう彼女に最後までついてきてくれた団員に向けて、
  演奏会の本当のラストは
  「今日はホンと…サンキュ」で終わった。

  仕事でも会が終わってから、会に出席されたお客様を出口にたって見送ることがある。
  「おつかれさまでした」
  「お気をつけてお帰りくださいませ」
  「またお会いしましょう」
  彼女はいつも学生時代のロビコを思い出す。

  状況は変われど、気持ちはいつでも同じ。
  さようなら、みなさま
  今日はホンと…サンキュ
  またお会いしましょう



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