herstory  

〜 進路 〜



  彼女の小学校の頃の夢は、1.歌手、2.学校の先生、3.○○のおばちゃんであった。

  大学を選ぶときは国語の先生になるつもりで文学部を選んだ。
  しかし1回生の時の一般教養で臨床心理の講義をうけた時、国語の先生になる夢は見えなくなってしまった。
  それは脳の障害についての講義であった。

  「昔はまだ研究が進んでいなかったので、脳の障害をもつ子どもの母はよく自分のせいだと責めたり、
  責められたりすることが多かったようですが、いまでは原因が別にあることがわかってきました。」

  講義の途中で涙が止まらず、その後の話はよく覚えていない。
  彼女が小学生の頃、障害をもつ弟のことで親戚に責められて泣いていた母の姿、
  弟と母のみ里帰りを許されず、彼女と父を寂しそうに見送っていた母の姿が彼女の頭を駆け巡った。
  
  講義が終わってから彼女は公衆電話から興奮して母に電話をかけた。
  興奮していきなりかけてきた彼女に母はとまどっていたが、それから笑いながらうんうん話を聞いていた。

  そのときから彼女は自分の専攻は心理学以外に考えられなくなった。
  人気のあった心理学専攻は定員オーバーで試験があったが、
  苦手だった英語も必死に勉強し、心理学関連の本をたくさん読んで面接に臨んだ。

  その熱意が天に通じたのか、彼女は文学部教育学科心理学専攻に進むことになった。
  心理学専攻では発達心理学、教育心理学、社会心理学を主に学んだ。
  国語の教職免許は結局取らないまま大学を卒業した。

  就職活動の時には興味関心の高い出版・教育・音楽関連の会社のみまわった。
  それは結局小学校の時に描いていた世界からさほど離れていない。
  新しく得た知識や経験を、もともとの自分の世界に生かし、さらに発展させることが得意なのかもしれない。
  歌や指揮や心理学で学んだことを仕事に活かしているように。



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