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〜 卒業式 〜


  
  中学校の卒業式。
  普段おとなしくしない子も不良と呼ばれた子も
  このときばかりはおとなしく儀式に参加している。
  自分の名前が呼ばれて返事をして立つ。
  一人一人が主役になるこの瞬間をそれぞれが経験し、
  式典自体は今までの練習どおりに滞りなく終わる。  

  しかし、卒業式の日のドラマは式が終わった後にあるものである。
  ホームルームが終わった後、
  卒業文集の表紙の裏にお互いに寄せ書きを書く者。
  だれかに呼び出され、周りの目を気にしながら教室を出て行く者。
  周囲を気にするどころか、あっというまに下級生に取り囲まれている者。
  いつのまにか制服のボタンがすべてなくなっている者。

  卒業式は女の子にとって最後のチャンス。
  今まで伝えることのできなかった思いを伝える日。
  男の子が告白するというよりも
  女の子の告白する日というイメージがなんとなくついている。 
  
  彼女はというと…
  寄せ書きにメッセージを書くグループに属していた。
  色気も何もない学校生活。
  部活動に青春を捧げ、女友達と楽しく過ごせれば、it's OK.
  特にだれかに思いを寄せるということもなかったため、
  少女マンガの世界にある涙の卒業式は自分とは違う世界であった。

  ある男の子の文集にメッセージを書き終わり、
  渡しにいった時、その子が彼女にむかってぼそっと言った。
  「俺、けっこうおまえのこと好きだったんだよ。
  まーったく気づいてなかっただろうけど。」
  彼女の思考すべてが止まった。
  その一瞬の「間」に身動きが取れない二人。
  彼女が何か言う前に、男の子は教室から去っていった。

  明日から別の世界に旅立とうとする卒業式の日の告白に
  彼女はただ、ボーゼンと立ちすくむしかなかった。




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