herstory  

〜 睡魔 〜



  初めて睡魔に襲われたのは中学1年の数学の時間。
  窓際の席。
  春の陽気に照らされ、目の前にはわけわからん問題。
  いつしか彼女の上のまぶたは重くなっていった。

  いけない。
  大事な授業。
  寝てはいけない。
  そう思えど、頭の中で意識が遠のいていく。
  はっと気づくと机と顔の距離が10センチほどに接近している。
  慌てて顔を起こす。
  そしてまわりを見回してみるが、
  彼女の様子を気にしている人はいないようであった。
  
  しばらくすると彼女に再び睡魔が襲いかかる。
  黒板写さなきゃ。
  必死に黒板をうつすが、文字はみみずもじ。
  消して書き直すが、さらに読めない文字になる。
  うたた寝の勢いでびーっと斜めに20センチほどの線が伸びていた。
  何度も消しているうちに、目覚めていてきちんとうつしていた部分まで消してしまった。

  先生の話をきかなくっちゃ。
  顔を正面に向け、半開きの白目で先生をみる。
  きっと口も半開きだったろう。
  一生懸命授業を進めているのに、生徒からそんな顔を向けられる先生は不幸である。
  
  そうしているうちに首の筋肉が頭を支えられず、
  再びこっくりこっくり頭が揺れだした。
  ごつ
  教室にくすくす笑いが広がる。

  彼女ははっと目覚め、周りを見回した。
  しかしそれは彼女に向けられた笑いではなかった。
  別の男の子がうたたねの勢いで頭を机に打ち付けたようだった。
  彼女は自分が笑われたのではないことに気づくとちょっとほっとした。
  しかし、次の瞬間、後ろの席の子と目が合うと
  その子は彼女が寝ていたこと気づいているかのような笑いを向けてきた。
  彼女はかーっと赤面した。

  その日はそれで目覚めることができたが、
  睡魔は様々な場面で彼女を襲った。
  まつげを抜いてみたり、
  シャーペンで手を刺してみたり、
  顔をつねってみたり、
  別にことを考えてみたり、
  いろいろ試しても自力で睡魔に勝てることはまずなかった。



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