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〜 チケフレ 〜



  彼女の大学の合唱団は20名前後の小規模団だった。
  演奏会に少しでもお客様を呼ぶために、他の大学の合唱団、グリークラブと合コンに行く機会を作り、
  チケットフレンド(チケフレ)と呼ばれる仲間をたくさん作るのも部員の大事な仕事であった。
  演奏会前になるとチケフレにチケットを送り合い、演奏会に差し入れを持っていくのが慣わしとなっていた。

  「チケフレ・ラッキー」という言葉があった。
  それは関係が単なるチケフレに終わらず、恋愛関係につながることであった。
  先輩からその話を聞かされ、彼女も期待に胸ふくらませ、たくさんの合コンに行った。
  しかし彼女の合コン運は他の団員に同情されるくらい悪かった。

  OI大のチケフレはもくもくと食事をするのみで、自分から話しかけることは一回もなかった。
  彼女は沈黙に耐えられずいろいろ質問したり、会話を膨らませようと努力したが、
  いつも一言二言で会話が終了し、長い長い長い1時間を過ごすことになった。

  K大のチケフレはいきなり「センター試験何点だった?」から会話が始まり、
  その後は彼の試験結果の話と彼の得意とする文学の話がとうとうと続き、
  営業スマイルを特技とする彼女でさえも、途中から笑顔をし続けるのに疲れてしまった。

  O大の合コンでは、部屋に入った瞬間から嫌な予感がした。
  一番奥にMr.オクレに似た、なるべくならお近づきになりたくない雰囲気の人がいた。
  彼女が最初に部屋に入ったため、席を奥からつめるしかなく、結局その人とチケフレになることになってしまった。
  そして第一印象をまったく裏切らない彼に疲れて帰ってきたら、なんと次の日にその彼から電話があった。
  それは、一緒に行ったメンバーで一番かわいいT嬢の名前と電話番号を教えてくれという電話だった。
  もちろんT嬢も敬遠していたので、彼女はきっぱりと断わった。
  しばらくして彼女の元にある噂が入ってきた。
  関西地区で放映されている某テレビ番組の「もてない君」コーナーに彼が出演していたとのことだった。
  彼女は彼と卒業するまで「フレンド」でいなければいけない自分の運命を呪った。

  D大のチケフレは文学青年であった。
  彼の手紙のなかの曲・演奏の紹介文は四字熟語や難しい表現が多く、彼女は辞書を片手に手紙を読まなくてはいけなかった。
  そして彼も彼女ではなく、同じ団の美人I嬢を気に入ったようだった。

  その後もたくさんの合コンに参加し、チケフレは増えたが、
  彼女の元に「ラッキー」は最後まで訪れなかった。



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